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遺言書の保管制度について

2020.05.21相続について

前回は、平成30年(2018年)7月6日に改正された、民法の相続法(正式には、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」といわれる法律です)のうち、施行日が最も早い「自筆証書遺言の方式緩和」についてご案内しました。

今回は、遺言制度に関しての見直しに関して、前回とはまた別の改正内容を簡単に説明します。
それは自筆証書遺言の保管制度です。
この改正は、平成32年(2020年)7月10日から施行されます。
施行日が先のため、まだまだ不透明な部分が多いので、実際の実務上の取扱いについての予想も交えながら説明していきます。

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自筆証書遺言は、公証役場に原本が保管される公正証書遺言と異なり、遺言者が自ら保管することが多いため、しばしば発見されることがなかったり、場合によっては近親者等によって偽造・変造されてしまったりと、その実効性や信憑性を巡ってトラブルになることがあります。せっかく遺した遺言書でも、発見されることがなければ、遺言書はないものとして相続人間で遺産分割がされたり、また、相続手続が終わった後に遺言書が発見され、場合によっては手続きをやり直さないとならないなど、これまで自筆証書遺言の保管方法にまつわるトラブルが後を絶ちませんでした。

このような保管に関するトラブルを避けるために、新たに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が制定され、自筆証書遺言を法務局に保管してもらうことが可能になりました。

制度の概要とは?

法務局で遺言書を保管をしてもらうためには、遺言者自身が法務局に自筆証書遺言の原本を持参する必要があります。代理申請はできません。
また、保管申請の際に一定の手数料(まだ金額は明らかになっていません)がかかります。

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法務局が保管を行う際は、原本を保管するとともにデータ化して保存することとされています。
そして、遺言者の相続発生後、相続人・受遺者・遺言執行者などの関係相続人等は、法務局に対して、遺言書の閲覧や、遺言書情報証明書という遺言書画像データの証明書を交付請求することができるとされています。

また、関係相続人等のいずれかがその手続をした場合、法務局がその他の相続人に対し遺言書を保管していることを通知することになっています。
法務局に保管されていない自筆証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所で「検認」という手続をする必要があり、この手続の中で相続人全員に家庭裁判所が通知をするのですが、今回の法務局の行う保管内容の通知はこれに代わるものとされています。

このため、遺言書保管制度を用いた場合、保管されている自筆証書遺言について、家庭裁判所での検認手続が省略可能になります。

相続発生時の検認手続省略、紛失の防止など、自筆証書遺言のデメリットが改善されることになるため、一見するととても素晴らしい制度と考えられます。

遺言書の検認が不要になる、
というのがもしかしたら落とし穴?!

内容の照会時に他の相続人全員に対し、法務局から通知がされることとなっていますが、この通知を送る際の相続関係調査(戸籍収集)を内容照会を行う者においてすることになる可能性が高いです。

(検認における負担の大部分が、相続関係確認の戸籍収集であることを鑑みると、検認が不要といっても結局戸籍収集を相続人が行うことになるのならば、相続人の負担減にはならないのでは?!と個人的には考えています。)

保管制度の創設で、公正証書遺言は不要になる?!

自筆証書遺言の方式が緩和され、かつ保管制度ができたからといって、公正証書遺言が不要になる、というわけではありません。
その理由は、この保管制度はあくまでも「保管」をする制度であって、遺言書の有効性については法務局で判断されないからです。

法務局は、法務省令で定める様式に従っているかどうかという点では遺言の中身を確認してくれますが、それはあくまで保管をするために必要な範囲での確認です。
遺言の内容面や相続手続での利用の可否についての審査や確認はしてくれません。

相続を争族にしないように遺言を作成するためには、ただただ想いを遺すだけではなく、相続手続に確実に使用できるものでなくてはならず、また、一部の相続人の遺留分の侵害の有無、遺言執行者の指定の有無、などの面も考慮した上で、後の相続人の無用な争いを生み出さないように、内容面を慎重に検討することが必要となってきます。

また、公正証書の場合には、作成の際に公証人や2名の証人が立ち会いますので、作成時に遺言者がどの程度の判断能力・理解力をそなえていたか、遺言者本人の意思で作成されていたか、などについて後々証言できる人が複数いるという点で、単に法務局に保管される遺言書よりも優れていると言えます。

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しかし、公正証書遺言を作成するには必要な資料の収集や遺言内容の検討など、様々な負担や専門的知識が必要となるため、相続の専門家やプロに相談しながら進めることを強くお勧めします。